最高裁判所第一小法廷 昭和42年(あ)3003号 決定 1969年10月16日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人保母道雄の弁護人花井忠、被告人長嶺豊明の弁護人平松勇、被告人吉田義正の弁護人市島成一、右被告人三名の弁護人栗谷四郎、同今井文雄の上告趣意第一点は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、上告適法の理由にあたらない。
同第二点は、単なる法令違反の主張であって、上告適法の理由にあたらない(株主は個人的利益のため株式を有しているにしても、株式会社自体は株主とは異なる別個の存在として独自の利益を有するものであるから、株式会社の利益を擁護し、それが侵害されないためには、株主総会において株主による討議が公正に行なわれ、決議が公正に成立すべきことが要請されるのである。したがって、会社役員等が経営上の不正や失策の追及を免れるため、株主総会における公正な発言または公正な議決権の行使を妨げることを株主に依頼してこれに財産上の利益を供与することは、商法四九四条にいう「不正の請託」に該当するものと解すべきである。本件において、原判決認定のごとく、株式会社の役員に会社の新製品開発に関する経営上の失策があり、来るべき株主総会において株主からその責任追求が行なわれることが予想されているときに、右会社の役員が、いわゆる総会屋たる株主またはその代理人に報酬を与え、総会の席上他の一般株主の発言を押えて、議案を会社原案のとおり成立させるよう議事進行をはかることを依頼することは、右法条の「不正の請託」にあたるとした原判断は相当である。)。
同第三点は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。
同第四点は、判例違反を主張するが、引用の判例は、いずれも本件と事案を異にして適切でないから、所論はその前提を欠き、その余は単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。
同第五点は、量刑不当の主張であって、適法な上告理由にあたらない。
被告人松本三郎の弁護人向江璋悦、同坂本恭一の上告趣意第一点は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない(所論の点について、原判断を相当とすべきことは、相被告人らの弁護人の上告趣意第二点について判示したとおりである。)。
同第二点は、憲法二一条違反を主張するが、実質は単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。
同第三点および第四点は、事実誤認の主張であって、適法な上告理由にあたらない。
よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)